• 2017/09/13

香美市立美術館 館長 都築房子さん

香美市立美術館の館長・都築房子さん。長らく高知で創作活動を続けてきた造形芸術作家であり、美術教師でもあるという、多彩な顔を持つ魅力的な《ヒト》に、迫ってまいりました!

スポンサーリンク

香美市土佐山田町にある香美市立美術館。
県立美術館に次いで、県内公共で2番めの規模を誇るこの美術館で、2012年から館長に就任されたのが都築房子さんです。

香美市立美術館 外観

実は都築さんは、長らく高知で創作活動を続けてきた造形芸術作家なのです。29歳で高知県展無鑑査となり、現在は県展理事も務めておられます。
また母校・土佐高校で美術の非常勤講師を務められたり(現在は退職)、幼児・美大受験生向け美術指導アトリエ「造形教室」を40年にも渡って主催するなど、美術教師としてのお顔も持っていらっしゃいます。

作家としての創作活動、教育施設運営、そして美術館館長・・・1つだけでも大変なこれら3つの仕事を、どうやって兼業しているのでしょう?
またこれほどのバイタリティは、いったいどこから沸いてくるのでしょうか?

美術館長に就くことになったいきさつや動機、こうした活動に駆り立てる美術への情熱など、都築房子さんという魅力的な《ヒト》に、迫ってまいりました!

「造形教室」にて、スタッフの井関さおりさん(写真左)と都築房子さん(写真右)

現役アーティストが美術館長になることの意味
都築さんが美術館長を引き受けたきっかけとは?


実は筆者(chochono)も、美大受験のために造形教室に通っていた生徒の1人です。
僕にとって都築先生は造形アーティストであり美術の先生・・・そんな先生が美術館長になられたと聞いて、とてもビックリしました。

こういった現役アーティストが公立美術館長になるような事例は、珍しいんじゃないですか?


いえ、最近はそういった例も少しずつ増え始めてるんですよ。2014年横浜トリエンナーレのアーティスティック・ディレクターを、美術作家の森村泰昌さんがやったりとか。
作家ならではの視点を持っていたり、美術館に出展する作家側の気持ちがわかる、などのメリットがありますよね。


なるほど・・・とはいえ、高知県内では珍しい事例だと思います。
どういったきっかけで、美術館長になられたんでしょうか?


前任の館長が辞められるにあたって、後任を探して色々な人に頼んだけど断られて、最後に声をかけたのが私という・・・私としては非常に受け身なきっかけです(笑)

ただ、頼まれてから1日ぐらい考えて、すぐにお受けしました。


1日!
あまり悩まれなかったんですね?


それには色々といきさつがあって、私は2001年頃から「ギャラリーnBoX」という親戚の納屋をギャラリーに改装した空間を運営してました。そこで展覧会を企画したり、色々な作家の方と交流を持ったりと、美術キュレーション的な活動はしてたんです。
そこを2010年に閉めて「次にどういう事をしようかな」と思ってる時に、ちょうど美術館長のお話を頂いたんです。
ですから、まったく白紙の状態で受けた話ではないですし、タイミングが良かったんですね。

ただ私はずっと在野の人間で、こういう公立の所に勤めた経験がないので、それは不安でしたね。こうした民間ではない、公共組織のやり方とか、物事の進め方というのが全くわかっていませんでしたから。


その不安をのり超えて、公立美術館長の仕事を受けようと思った動機は、何だったのでしょうか?


一番大きな理由は、私が今まで美術の世界でいろいろな方にお世話になってきた、そのお返しをするということですね。

よく言われるように「自分がお世話になった先人たちには、既にお亡くなりになられてたりして恩返しができない。だから代わりに後進たちのお世話をすることで、業界への恩返しができる」・・・まさにそんな気持ちで、このお仕事を引き受けました。


美術界への恩返しですか!
素晴らしいですね。


私もこの年代になって、余生というほどでもないけど、人生の残りを考えた時に「どうやって社会に貢献できるか」ということに捧げようと。

ただ、美術館業務というのは人のお世話ばかりしている仕事で、そちらが激務すぎて自分の創作活動ができなかった、という苦労はありましたけどね。


あの・・・今回インタビューにあたって調査中に、こちらの美術館は職員3人だけで運営されているということを知ったのですが、それは本当なんでしょうか?


はい、そうです(笑)
私ともう1人の学芸員、この2人とも非常勤で、もう1人正職といって役場から派遣されてきてる人の、計3人。
あとは受付だけやるパートの人が1人いますけど、美術館業務はこのたった3人だけで、全てやりくりしています。


そんなことが可能なんですか!?
この規模の美術館を、3人だけで運営するなんて!

美術館業務というと受付で入場者対応の他にも、美術作品の展示設営や、そもそも展示の企画なんかもありますよね?


そうなんです!
受付には必ず1人は居なければいけないし、それをしながら美術館の2~3年先まで企画を練って、さらにその企画展を開催するために作家の人と会ったり、美術作品の貸出交渉に出かけていく事もあるし・・・大変なんですよ(笑)

 


それでさらに、造形教室にも行かれてるんですよね?それじゃあ・・・作家としてのご自分の活動は、なかなかできないですよね・・・(絶句)

では、最近はご自分の個展などは開いてないんでしょうか?


この5年間は、県展や女流展などに出展しただけで、自分の個展はできていません。

最近になってやっと余裕も出てきてそういったお話も頂くようになって・・・そしたら急に、今年(2017年)いきなり2つも自分の個展を開くことになったんです(笑)

1つはギャラリーも兼ねたCafe「空時間」での個展で、6月に開催しました。
もう1つは安芸郡奈半利町の、古民家Artで個展を開きます。こちらは9月10日(日)~24日(日)です。

cafe「空時間」での個展の様子

cafe「空時間」お家づくりの様子はこちら

奈半利・古民家Art チラシ(※現在開催中。9月24日まで)

奈半利・古民家Art 詳細はこちら

香美市立美術館の魅力
そして美術館長として、都築さんが伝えていきたいこと


そんな、都築先生が大変なやりがいを持って館長をされているこちらは、どういった美術館なんでしょうか?

失礼ですが、高知市中心部から離れた人口もあまり多くない地域に、これだけの規模の美術館があるというのは意外に思えます。しかも公営の。


ここは県立美術館の1年後、1994年にできたんですが、最初は土佐山田町立美術館といって町がつくった美術館だったんです。こんな小さな行政単位で、よくこの規模の美術館をつくったなぁと思いますね。
当時の町長さんの、選挙公約だったそうですよ。


へえ~!
それほどにこの場所で美術館が望まれていた、ということですよね?この土佐山田という土地には、何かこういった芸術を振興するような気風があったのでしょうか?


こうした中山間部の地域は、その土地だけの独自の文化が生まれやすかったみたいですね。作家とかも結構たくさん輩出されていますし、そんな土地柄が、美術館創設に関係してるのかもしれません。

美術館敷地内にある高崎元尚先生のモニュメント。高﨑先生も香北町(現・香美市)のご出身。


ちょうど今、「怖い絵」展をされてますね。

インタビュー時(2017年2月)は「怖い絵」展期間中でした。


今回の「怖い絵」展に出してる作品のいくつかは、10年ぐらい前に当美術館に大量に寄贈されたものだったんです。
それらは作品としては良いものだったんですが、いかんせん、おどろおどろしい絵なので、一回も展示として出すことなく、ずっと倉庫に眠りっぱなしでした。
1回だけ外に出したこともあるんですが、やはり怖すぎるということで、1日で戻されてしまったり(笑)

これらの絵をなんとかして、価値を認めてもらえる形で世に出さなければ、というきっかけで今回の「怖い絵」展が企画されました。
それでも今回も、「怖い絵」という赤くておどろおどろしい文字とか、ポスタービジュアルとかが、不安に思われてたみたいですね(笑)

「怖い絵」展チラシの表裏。確かに、お化け屋敷かと思うようなインパクトのあるビジュアルで、「お客さんが来るだろうか」と不安になるかも・・・。


ですがフタを開けてみたら、来場者がすごく多かったんです!しかも普段の来館者の年齢層とぜんぜん違って、若い人ばかりで!

初日の来場者74人中、65歳以上が2人しかいなかったり、日曜日に100人以上入った時も若いカップルがたくさん見に来てたり・・・普段はどんな展示でも半数以上が年配の人なのに、ビックリしました!
「怖い絵は若い人にウケるのかしら」なんて話しました(笑)


やはり現役アーティストであり、若い作家の育成もされている都築先生の感性が、反響の大きい企画を生み出せるのでしょうか。


いやぁ・・・私は常識がないですからね(笑)
公務員的常識からずれている、ということですが。

気を使う人なら、もっと柔らかい表現の、当たり障りのない企画にしてしまうのかもね。


公共美術館に現役作家の都築先生が入ることで、ある種の刺激を生み出しているんでしょうね。


基本的に、自分が見たいものをやりたいと思ってるんですよ。自分が良いと思ってないのに、人にオススメはしたくないですから。

やはり日本人って、美術館などでアートに触れる機会がまだまだ少ないですよね。
そして多くの人に、「美しくて穏やかで、心慰めてくれるものが美術だ」みたいな固定観念を持たれてしまっているとも思います。「美術」という名前が良くないのかもしれないけど(笑)
暗くて怖くて突きつけてくるようなものは、できれば避けたい・・・みたいな。そんな感覚が普通ですよね。

それが、今回の「怖い絵展」に人がたくさん来たように、意識が変わってくれると嬉しいですね。
「美術というのは美しい、きれいだけじゃなく、もっと、深くおもしろいんだよ」ということを伝えたいです。


素晴らしい使命感ですね!
本日お話をきいて、先生がこちらの美術館長になられた訳がよ~くわかりました!


一体いつまでできるかなあ、という感じですけどね(笑)この仕事は体力勝負だし、頭も使わないといけないし、けっこう激務なので。
夢とかやりたい事というよりは、一回一回の企画をやり遂げながら、できるだけ長く続けていきたいと思ってます。

取材協力:香美市立美術館


この記事を書いたヒト

chochono

東京、中目黒在住のダンサー。fulsatoto編集長。魅力的なhitoへのインタビュー、東京での高知文化の活躍などを紹介します。